法的文書や社内規定との整合性を自動判定するリーガルチェックGem

契約書チェックの『見落とし不安』をゼロに近づける!Google Gemで作る自社専用リーガルチェックAIの構築全手順

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契約書チェックの『見落とし不安』をゼロに近づける!Google Gemで作る自社専用リーガルチェックAIの構築全手順
目次

この記事の要点

  • 契約書や法的文書の見落としリスクを大幅に低減
  • 各社の社内規定に準拠した高精度な整合性チェック
  • Google GemによるノーコードでのAI構築とカスタマイズ

システム開発やクラウド技術の現場において、ドキュメント作成やシステム解説は重要な役割を担います。同様に、バックオフィスの業務においても、情報の構造化と正確な理解が求められる場面は少なくありません。特に法務や総務の業務では、「契約書チェックが終わらない」「見落としがないか不安になる」といった課題が頻繁に挙げられます。

特に、法務専任者がいない中小規模の企業や、いわゆる「ひとり法務」の現場では、そのプレッシャーは計り知れません。高額なリーガルテック(法務系ITツール)を導入できれば楽になるかもしれませんが、予算の壁は厚いのが現実です。

そこで今回は、普段お使いのGoogle Workspace環境(または個人アカウント)で利用できるGoogle Geminiの「Gem(ジェム)」機能を使って、「自社の社内規定に特化したリーガルチェックAI」を構築する方法を解説します。

「AIを作る」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、コードを書く必要は一切ありません。技術ドキュメントを整理するのと同じアプローチで、「判断基準」をAIに設定するだけです。このガイドを読み終える頃には、頼れる法務アシスタントが手元に誕生しているはずです。

なぜ、契約書チェックはこれほど精神を削るのか

具体的な構築手順に入る前に、まずは現状の課題を整理しましょう。課題の所在を明確にすることで、AIに何を任せるべきかが見えてくるからです。

「見落とし=会社のリスク」という重圧

契約書チェック業務が他の事務作業と決定的に異なるのは、ひとつのミスが将来的に会社へ甚大な損害を与える可能性があるという点です。「てにをは」の間違いなら修正すれば済みますが、損害賠償の上限設定や、契約解除の条件などを見落とせば、取り返しのつかない事態になりかねません。

この「失敗が許されない」というプレッシャーは、担当者の精神をじわじわと削っていきます。特に、夕方以降の疲れた頭で細かい条文を目で追っているとき、「本当にこれで大丈夫か?」という不安に襲われた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

社内規定との「照らし合わせ」にかかる膨大な時間

契約書チェックには二つの側面があります。一つは「法律的に正しいか(適法性)」、もう一つは「自社のルールに合っているか(整合性)」です。

弁護士に依頼すれば前者は完璧に見てくれますが、後者の「自社の細かいルール」まではカバーしきれないことが多々あります。

  • 「支払いは月末締め翌月末払いが原則」
  • 「知財権は共有ではなく、原則として帰属させること」
  • 「契約期間の自動更新はリスク管理規定で禁止している」

こうした「自社独自のローカルルール」と照らし合わせる作業こそが、最も時間を要し、かつ外部に頼みにくい部分なのです。

外部弁護士に頼むほどではない軽微な確認の悩み

すべての契約書を顧問弁護士に見てもらえれば安心ですが、コストとスピードの観点から現実的ではありません。秘密保持契約書(NDA)や、定型的な業務委託契約書など、件数が多く単価の低い契約まで外部に出していては、ビジネスのスピードが落ちてしまいます。

結果として、「重要度は低いが数は多い」契約書の山が、担当者のデスクに積み上がることになります。ここをAIにサポートさせるだけで、業務負荷は大きく軽減されます。

「リーガルチェックGem」とは? あなた専用のAI法務アシスタント

ここで提案するのが、Google Geminiのカスタム機能「Gem」を活用した解決策です。

Google Geminiの「Gem」機能の基本

Google Geminiは非常に優秀なAIですが、通常の状態だと「一般的な知識」しか持っていません。また、新しいチャットを始めるたびに「私は企業の法務担当で、自社の規定はこうで…」と説明するのは手間がかかります。

「Gem」とは、あらかじめ特定の指示(プロンプト)や知識(ファイル)をセットしておける「カスタムAI」のことです。

一度設定してしまえば、呼び出すだけで「自社の事情を熟知したアシスタント」として機能します。これは、毎回ゼロから説明しなければならない通常のチャットボットとは決定的な違いです。

一般的なチャットAIと「カスタムGem」の決定的な違い

技術ドキュメントの作成においても、この「コンテキスト(文脈)の保持」は非常に重要です。Gemを使うメリットは以下の3点に集約されます。

  1. 前提条件の固定: 「あなたはベテラン法務担当者です」という役割を固定できます。
  2. 知識の参照: 自社の就業規則やリスク管理規定などのファイルを「ナレッジ」として持たせることができます。
  3. 出力形式の統一: 「修正案は条文形式で出し、理由を箇条書きにする」といったフォーマットを記憶させられます。

社内規定を「記憶」しているからこその強み

市販のAIリーガルチェックツールは、一般的な法務知識やひな形との比較には強いですが、「自社の社内規定」との整合性チェックには、高額なカスタマイズが必要な場合があります。

対して、今回作成する「自作Gem」は、自社の規定そのものを基準(物差し)にします。

「一般的には問題ないが、自社の規定としては不適切」

この判断ができるようになることが、自作する最大のメリットなのです。

準備編:AIに読ませる「判断基準」を整理する

「リーガルチェックGem」とは? あなた専用のAI法務アシスタント - Section Image

それでは、実際に構築する準備に入りましょう。システム開発における要件定義と同様に、事前の準備が重要です。高度な技術的知識は不要ですが、AIに渡す「情報の質」が回答の精度を大きく左右します。

必要なもの:Googleアカウントと社内規定ファイル

まず、以下の環境が必要です。

  • Google Gemini Advanced (Google One AI Premium) または Gemini Business / Enterprise のライセンス
    • ※無料版のGeminiでは、Gemの作成機能やファイルアップロード機能に制限がある場合があります。業務利用であれば、セキュリティの観点からもBusiness以上のライセンスを推奨します。
  • 社内規定のデータファイル
    • PDF、Googleドキュメント、Word形式などが読み込めます。

AIが理解しやすいデータ形式(PDF vs Googleドキュメント)

ここで、データ形式に関する技術的なポイントを解説します。AIはPDFも読み込めますが、レイアウトが複雑なPDF(段組みが多い、表が崩れているなど)だと、読み取りミスが発生することがあります。

可能であれば、Googleドキュメント形式でテキスト化された規定を用意するのが最適です。見出し(H1, H2など)が適切に設定されていると、AIは文書の構造を正しく理解し、「第〇条によると…」といった正確な参照が可能になります。

チェックさせたい観点の洗い出し

ただ「チェックして」と指示するだけでは、AIも何を確認すべきか迷います。以下のような「チェックリスト」を事前に書き出しておきましょう。

  • 契約期間: 自動更新になっていないか? 解除予告期間は適切か?
  • 損害賠償: 上限設定はあるか? 賠償範囲は限定されているか?
  • 裁判管轄: 自社の本社所在地になっているか?
  • 知財帰属: 成果物の権利は自社に帰属するか?
  • 支払条件: 自社の経理規定(例:月末締め翌月末払い)と合致しているか?

これらが、後ほどGemに設定する「システム命令(インストラクション)」の核となります。

実践ガイド:15分で作れる「自社専用チェックGem」構築手順

準備ができたら、実際にGemを作成しましょう。画面をクリックしていくだけのノーコード作業です。段階的に進めていきます。

ステップ1:Gemマネージャーを開き「新規作成」

  1. Google Geminiの画面を開き、左側のメニューにある「Gemマネージャー」をクリックします。
  2. 「Gemを新規作成」ボタンを押します。
  3. 名前を付けます。「法務アシスタント」や「社内規定チェッカー」など、用途が分かりやすい名前が良いでしょう。

ステップ2:社内規定ファイルを「ナレッジ」として登録

設定画面の中に「ナレッジ」という項目があります。ここがGemの知識ベースになります。

  1. 「ファイルを追加」をクリックし、Googleドライブから(またはPCからアップロードして)、用意した社内規定ファイルを選択します。
  2. 「リスク管理規定」「決裁権限規定」「標準契約書ひな形」などを登録します。

これで、このGemは自社のルールブックを参照できるようになりました。

ステップ3:AIへの役割定義(プロンプト)の設定例

ここが最重要ポイントです。「インストラクション」の欄に、AIへの指示を入力します。以下のテンプレートを参考に、自社の要件に合わせて調整してください。

インストラクションの例

役割:
あなたは自社のベテラン法務担当者です。論理的かつ慎重に、契約書ドラフトのリスクを判定してください。

タスク:
ユーザーがアップロードする契約書ドラフトの内容を、ナレッジに登録された「社内規定」および「標準契約書」と照らし合わせ、矛盾点やリスクを指摘してください。

チェック項目:

  1. 整合性確認: ナレッジ内の規定(特に支払条件、契約期間、知財条項)と矛盾していないか。
  2. 不利な条項の抽出: 自社にとって著しく不利な条件が含まれていないか。
  3. 曖昧さの排除: 解釈が分かれる曖昧な表現がないか。

回答フォーマット:
指摘事項がある場合は、以下の形式で出力してください。

  • 該当条文: (ドラフトの条数)
  • 問題点: (何が問題か、どの社内規定と矛盾するか)
  • 修正案: (具体的な修正文言の提案)
  • リスクレベル: (高・中・低)

これを入力して「作成」を押せば完了です。これだけで、専用のリーガルチェックツールが構築できます。

活用シミュレーション:秘密保持契約書(NDA)をチェックさせてみる

実践ガイド:15分で作れる「自社専用チェックGem」構築手順 - Section Image

では、作成したGemの動作を確認してみましょう。よくある「取引先から送られてきたNDA」をチェックさせるシナリオです。

契約書ドラフトをAIに投げる方法

チャット画面で、先ほど作ったGemを選択します。そして、チェックしたい契約書のPDFやWordファイルをアップロードし、以下のように指示を出します。

「このNDAドラフトをチェックしてください。特に自動更新条項がないか確認をお願いします。」

AIからの回答例:「第〇条が社内規定の△△と矛盾しています」

Gemは数秒で文書を読み込み、ナレッジ内の規定と照合して以下のような回答を出力します。

回答例

該当条文: 第8条(有効期間)
問題点: 「本契約は、双方からの申し出がない限り1年間自動的に更新される」とありますが、これはナレッジ内の『リスク管理規定 第12条(契約期間の定め)』にある「原則として自動更新条項は含めないこと」というルールと矛盾しています。
リスクレベル:

単に「一般的によくない」ではなく、「リスク管理規定第12条と矛盾している」と、根拠を明示して指摘する点が非常に効果的です。

修正案の提示まで依頼するテクニック

さらに、修正案の作成も依頼できます。

「第8条の修正案を作成してください。自動更新を削除し、期間満了後は別途協議する形にしてください。」

このように指示すれば、適切な法務用語を用いた修正案が即座に生成されます。あとはそれをコピーして、文書に反映するだけです。

絶対に押さえておくべきリスクと注意点

活用シミュレーション:秘密保持契約書(NDA)をチェックさせてみる - Section Image 3

ここまでAIの利便性を解説してきましたが、システムを業務に導入する上で、絶対に守るべきガイドラインが存在します。技術は万能ではありません。その限界とリスクを正しく理解し、適切な運用を行うことが不可欠です。

AIは「弁護士」ではない:最終判断は人間が

これが最も重要です。AIが行うのはあくまで「文書の比較」と「パターンの検出」です。法的な適法性を保証するものではありません。

AIが「問題なし」と判定したからといって、法的に完璧である保証はありません。また、弁護士法72条(非弁行為)との兼ね合いもあります。AIを「意思決定の補助ツール」として位置づけ、最終的な判断と責任は必ず人間が持つという運用ルールを徹底してください。

ハルシネーション(もっともらしい嘘)への対策

生成AIは稀に、存在しない条文や事実を生成することがあります(ハルシネーション)。
特に条文番号の参照などで間違いが起きることがあります。

  • 対策: AIが指摘した「社内規定 第〇条」が本当に存在するか、必ず原文を参照して確認するプロセス(ダブルチェック)を組み込んでください。

機密情報の取り扱いと学習設定のオフ

契約書には取引先の機密情報が含まれます。これをAIに入力する際は、情報漏洩リスクに配慮する必要があります。

Google WorkspaceのBusiness / Enterpriseプランであれば、基本的に「入力データはモデルの学習には使用されない」という契約になっているはずです(※必ず管理者に設定を確認してください)。

逆に、無料の個人用Googleアカウントなどで利用する場合は、入力したデータがAIの学習に使われる可能性があるため、実在する企業名や個人名を含む契約書をそのままアップロードするのは避けるべきです。マスキング(黒塗り)するなどの対策が必要になります。

まとめ:小さな自動化から始める法務DX

契約書チェックの完全自動化はまだ先の段階かもしれませんが、「社内規定との単純な照らし合わせ」をAIに任せることは、今すぐにでも実現可能です。

まずは、形式的なチェックや、シンプルなNDAの確認から始めてみることを推奨します。

  1. スモールスタート: 完璧を目指さず、まずは「誤字脱字」や「必須条項の有無」の確認から導入する。
  2. 精神的余裕の確保: 「AIによる一次チェック」というプロセスが、確認業務のプレッシャーを軽減する。
  3. 本来の業務へ: 単純作業から解放された時間を、より戦略的な法務課題やコンプライアンス教育など、人間にしかできない業務に振り向ける。

もし、「自社の規定が複雑すぎて、うまくGemに反映できない」「セキュリティ設定に不安がある」「もっと高度なチェックフローを構築したい」といった課題に直面した場合は、技術的な設定だけでなく、業務フロー全体を見直すことが有効です。専門家の知見を取り入れながら、最適なAI活用ステップを検討し、業務の効率化と品質向上を目指していくことをおすすめします。

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